がむしゃらに働いてたちょっと前までは
少しでも睡眠時間をとるために
「精神と時の部屋」が欲しいと思ってた。
でも、腫瘍が発覚してからは
夜が長くて長くて全然寝つけない。
「精神と時の部屋」なんて欲しくない。
腫瘍ひとつで180°変わってしまう価値観。
つくづくわたしって身勝手だと思う。
でも、ひとつ決めた。
これからは、生き急がない。
1秒、1分、1時間をもっと感じながら生きたい。
そして、もっと足下を固めようと思った。
前を向いて、上を向いて歩きながらも、
でも、足で踏む地面の感覚をちゃんと感じること。
ちょっとずつ季節が変わって、
気づいたら、外の空気が少し冷たい。
もう少しして、代々木公園なんかを歩いたら
きっと地面が葉っぱでさくさくして気持ちいいだろう。
少し前に代々木公園に行ったとき、
空気がおいしくてびっくりした。
びっくりするほど、おいしくない空気ばかり吸ってたんだ。
そんなささいな喜びを大事にしながら生きたい。
『ものすごいことのようにも思えるし、
何てことないことのようにも思えた。
奇跡のようにも思えるし、
あたり前のようにも思えた。
何にせよ、言葉にしようとすると消えてしまう淡い感動を
私は胸にしまう。』
吉本ばなな「キッチン」より。